日常日常とは、(広辞苑によりますと)にち‐じょう【日常】‥ジヤウ つねひごろ。ふだん。平生。平常。「―的」「―の生活」 のこと。 だからして、日常生活とは「つねひごろの生活」のこと。 私の日常生活は、以前のそれとは変わってしまった。 でも「変わった」と自覚していた頃の私は、 一月十五日以前にあった「日常」と現在の「日常」を比較していた。 今、私は再び「いつもとおなじ生活」を送っている。 今日も一日、昨日や一昨日と何ら変わりのない一日をすごした。 これは、私が病院と言う環境に適応し、その環境の中で生きる事を 「当たり前の生活」だと認識した結果に他ならない。 病院で母と過ごす生活が私の日常生活になったということだ。 そんな私の「常識」からいうと、 人というものは、大概丸坊主か五分刈りであり、 肌色のテープは頭に貼るべきものであり、 パジャマは一日中着ているものであり、 普段履くのはスリッパである。 先日浴衣にパンプスを履いた人がエレベーターに乗ってきた。 彼女が降りて行った後、エレベーターの中にいた二人が「モダンやなぁ~」と感動していた。 また、坊主や五分刈りでさえあれば、無責任な発言も許される。 昨日から、母の横に手術を終えた女性(山崎さん:仮名 以下Y)が横たわっている。 勿論、頭部の手術を終えた後なので、頭髪は無く頭からは管が出ており、 テープでそれが固定されている。 病名は知らないが、命にかかわる手術であった事に間違いは無い。 今朝行くと、ご家族と思われる数人の男女がその女性を囲んでいた。 そこへ看護士(以下K)が。 K:「山崎さん、こんにちは! 看護士の○○です。 よろしくおねがいします。」 Y:「(間延びした、高い声で) はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「お名前教えていただけますか?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「・・・」 Y:「・・・」 K:「お名前いってくれますか?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「お名前は?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「お名前は 山崎何さんでしたっけ?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 <話題を変え> K:「(指をかざしていると思われる)私の指が見えますか?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「何本かわかりますか?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「何本か教えてください。」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「何本?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 <話題を変え> K:「xxさん、お年はおいくつでしょう? 覚えてらっしゃいますか?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「じゃ、教えてください。」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「・・・」 Y:「・・・」 K:「おいくつでいらっしゃいますか?」 Y:「はぁぁ~いぃぃ~。」 K:「何歳ですか??!」 Y:「・・・よんじゅうぅ~ごさい~。」 K:「ん??」 Y:「よんじゅうぅ~ごさい~。」 K:「・・・。 えっと、、山崎さんは 64歳、、、でしたね・・・。」 Y:「・・・」 K:「64歳ですよね?」 Y:「・・・」 脳神経外科の病棟と言うところは、 棺おけに足を突っ込もうかどうか思案している人の集団であり、 患者の家族は恐ろしい不安と緊張に溺れそうになりながら、 かろうじて泳ぎ続けている。 その張り詰めた空気の中で、ほかならぬ緊張を強いている当人が その緊張と緊張の糸をばさりと切り、その間にこらえきれぬような笑いの瞬間を ねじ込んでくる。 はっきり言って、私はこの日常が決して嫌いではない。 (明日の報告は、この続きに書きます) |